1 事案の概要
本件は、担当職員が、2022年6月30日に職員に支給された夏のボーナスから差し引いた源泉所得税9億6063万8388円の納付期限を誤解し、誤った払出命令書を作成し、上司である給与係長・労務課長が書類の間違いに気づかないまま承認・決裁してしまったことから、上記源泉所得税9億6063万8388円の納期限である7月11日までに納付することができなかった結果、仙台市が延滞税145万2700円と不納付加算税4803万1500円の合計4948万4200円を支払うことになり、損害を被ったという事案です。
2 訴訟提起
仙台市民オンブズマンは、2023年5月17日付で本件に係る監査請求を行いましたが、これに対する監査結果(2023年7月6日付)は、労務課長、給与係長及び担当職員には重過失が認められないとして、損害賠償責任を 否定するものでした。
上記監査結果を受けて、仙台市民オンブズマンは、2023年8月3日、仙台市長に対し、担当職員らに損害賠償請求をすることを求める住民訴訟を提起しました(仙台地方裁判所第3民事部に係属)。
労務課長、給与係長及び担当職員も、それぞれ補助参加人として訴訟に参加しています。
3 訴訟の目的
本訴訟は、仙台市長に対し、担当職員らの個人責任を追及することを求めるものですが、その主眼は、個人責任の追及にとどまることなく、納付遅れを招来した根本原因が仙台市の組織体制の在り方にあることを明らかにするという点にあります。
仙台市民オンブズマンとしても、直ちに担当職員らに全責任を負わせることは相当でなく、納付遅れが発生した具体的な経緯や原因をより詳しく明らかにした上で、具体的な責任の範囲を画定すべきと考えています。
以上のような観点から、訴訟提起段階では、担当職員ら各人の責任の範囲を、損害額全体(4948万4200円)ではなく、暫定的にそれぞれ3割相当額(1484万5260円)としましたが、今後、仙台市長や担当職員らの主張、尋問の結果等を踏まえて変更することも検討しています。
4 争点と主張の概要
本訴訟では、納付遅れについて、労務課長及び給与係長に重過失が認められるかが中心的な争点になっています(重過失が、責任を負うための要件になっています)。
仙台市民オンブズマンとしては、概要、そもそも例年6月分(ボーナス月)の源泉所得税額は他の月より大幅に増えるため、より深く注意すべき状況の中、決裁文書の中には、「ここを一読しさえすれば確実に誤りに気付けたはず」といえる箇所が複数あったのに、それすら見逃したのであるから、労務課長及び給与係長には重過失が認められると主張しています。
これに対する労務課長及び給与係長の反論は多岐にわたりますが、概要、①他の業務に忙殺されていた、②部下を信頼して任せていた、③(担当職員の誤解の要因となった)システムやマニュアルの不備を認識していなかった、④過去に前例がなかった、等の理由で、重過失を争っています
しかし、いずれについても、本当に重過失を否定する事情といえるのか、大いに疑問です。
なお、担当職員については、重過失要件が明文で定められていないため、そもそも重過失が必要か(軽過失でも責任を負うのか)という点が争いになっています。
5 今後の予定
昨年8月の訴訟提起以後、主張書面のやり取りを重ね、仙台市長や担当職員らの主張は概ね明らかになってきましたが、双方の主張は依然平行線を辿っています。
現在、仙台市民オンブズマンからは、補助参加人3名(労務課長、給与係長、担当職員)の人証請求を行うとともに、決裁文書や当時のマニュアルなどの記載の中で不明確な点についての説明を求めており、次回期日(2025年2月3日)までに、仙台市側の回答が提出される見込みです。
仙台市民オンブズマンとしては、本訴訟を通じて、仙台市において杜撰な事務処理が繰り返されていた根本原因を解明していきたいと思います。